海が遠いブルゴーニュ
La Bourgogne, orpheline de mer



 ブルゴーニュになくて残念だと思うのは・・・海。ベルギーやオランダまで領土としていたブルゴーニュ公国の時代には、ちゃんと海軍まであったのですが!・・・


肉食のフランス人

 フランス人は、平均、週に魚料理を2、3回食べているというアンケート調査結果を聞いたとき、本当かしら?と思ってしまいました。安い冷凍食品を食べる人が多いのではないだろうか、と思いました。

 日常食べる食材は安いフランスなのですが、海産物に関しては日本より高いくらいなのです。それに売られている魚の種類も、日本よりはるかに少ないと感じます。

 フランスの食糧自給率を見ると、ほとんどの品目は100%を上回っていて、過剰生産の方が問題なくらいなのですが、魚介類の自給率は4割を切っています。

 農業者たちがデモをすると、一般の人たちの同情が集まるように感じます。過激なデモで犯罪行為をしても、法律では裁かれないし、マスコミの報道も好意的。日本にも招聘されたという農民連盟のジョゼ・ヴォベが、マクドナルドを襲撃したくらいで刑務所に入れられたのは異常なことでした。

 安い輸入品によって痛めつけられている漁業関係者も同じようにデモをするのですが、畑や牧場で働いている農業者に対するような好意的な扱いはないように感じます。それが分かっているのか、農業者たちのような無茶なデモはしません。

 そんな違いを見ても、ほとんどのフランス人たちは、農産物で生きていると意識しているのではないかと思ってしまいます。


ブルゴーニュには海がない・・・

 海から遠いブルゴーニュでは、特に魚介類を食べる機会が少ないと感じます。牛や家禽類の飼育が盛んなので、陸の動物を食べる地方なのでしょう。

 郷土料理に魚の姿が見えるのは、川魚、それから地域によってはカエルがあります。カエルは魚ではないのですが、魚屋さんで売っているので魚介類に見えてしまうのです。

 ブルゴーニュに住んでいる済んでいる私の友人関係では、魚介類には手が出ない言う人が何人もいます。数年前、友人がオーガナイズしたレストランでの夕食会はシーフードでした。参加者の一人だった女性は、シーフードのみごとな盛り合わせを生まれて初めて見たと言います。

 いくら田舎に住んでいる専業主婦の女性だとは言え、50年以上もフランスに住んでいてシーフードを見たことがなかったというのには驚きました。

 彼女、エビやカニや貝類はおいしいと喜んでいました。でも牡蠣には手が出ません。気持ち悪いのだそうです。

 魚介類が嫌いだという友人は、子どものときに腐ったものを食べさせられたのではないかと思ってしまいます。でも聞いてみると、何が原因か分からない、と彼らは答えます。確かに生牡蠣は見た目が良いものではありません。でもエスカルゴを食べるくらいなのですから、牡蠣はグロテスクだと思わなくても良いのではないかと思ってしまいます。

 フランス人の好き嫌いというのははっきりしていて、食べないとなると、絶対に食べません。ニンニクなど嫌だという人は、消化できないのだと医学的な言い訳をします。でも魚介類については、ただ食欲をそそられない、というのが理由のようです。

 最近のフランスは日本食ブームなので、私もお刺身をつくるようになりました。でも、魚介類を仕入れるのには隣の県まで行きます。海に近くなるわけではないのですが、パリの中央市場で新鮮で質の良い魚を仕入れる、こだわりの魚屋さんがあるのです。

 ブルゴーニュ地方で一番大きな都市はディジョンですが、刺身にしたいと思うようなネタを売っている魚が見つかりません。そもそもディジョン市内には、信じられないことに魚屋さんが1軒もないのです! スーパーマーケットの魚コーナー、大きな朝市に出店する3軒くらいの魚屋さんがありあるだけです。

 ディジョンでさえこの程度ですから、小さな町などには魚屋さんがありません。ある程度の規模の町になると、スーパーマーケットで魚を売っていることがあります。でも魚屋さんが出るのは、キリスト教で魚を食べる火になっている金曜日だけ、などという場合も多いのです。

 大きなスーパーでは冷凍の魚介類を売っているのですが、そんなものを食べる気にはなりません・・・。


でも、フランスには海がある!

 フランス政府が東京に農業見本市を持ち込んだときの仕事で、日本の新聞にPRする原稿を書いて欲しいという依頼がを受けました。

 フランスは農産物が豊かで、農業が盛んなために美しい景観がある・・・などという内容の文章になりました。

 依頼してきた担当官に原稿を送ると、とても良く書けているので喜んだのだけれど、農相が一言加えて欲しいと言った、と遠慮がちに言うファックスの返事が来ました。

 フランスには海があり、魚介類も豊富なのだ、ということを付け加えて欲しいというのです。

 四方を海に囲まれた国に住む日本人に対して、「海がある!」などと自慢するのはおかしいとは思ったのですが、大臣に逆らうわけにはいかないので数行付け加えました。

 考えてみればヨーロッパには海が全くない国々があるのですから、フランス人にとっては、海があるのは自慢なのでしょう・・・。

 ここまで書いてから、あらためてフランス地図を眺めてみると、海岸線は意外に長いのだ、と気がつきました。

 ブルゴーニュにいると、どちらの海に出るにも容易ではないほど遠いので、フランスにとっての海の存在は薄れてしまうのです。ごめんさない・・・。

 でも、そんなに海があるのに、どうしてフランスの魚介類はこんなに高いのでしょう?・・・ イタリアに旅行するときには、国境をはさんでロブスターの値段が格段に違うと驚くのです。


海沿いの町に行くと・・・

 海沿いの地方に行くと、魚介類は豊富だし、住民たちもたくさん食べていると感じます。

 先日行ったノルマンディーの海岸沿いにある町では、海辺に魚市場があったので嬉しくなりました。

 12月は帆立貝のシーズンらしく、どこでも特売の札と一緒に山積みされていました。後で聞いたのですが、今年(2003年)は異常な暑さだったせいか、帆立貝が取れすぎているのだとか。

 それにしても安い・・・。ブルゴーニュの半額のような気がしました。

 旅行中なので魚介類を買うわけにはいきません。せめてレストランでシーフードを注文しようと思いながら、全部の店を回って、どれを食べようかと眺めました。

 ついでに、何処のレストランで食べたら良いかまで店員さんに聞いてしまいました。

 私が泊まったホテルにはレストランがあったのですが、店先のメニューを見ると、肉料理ばかりが並んでいました。誰も客がいません。海沿いの町なのに魚料理を出さないのがいけないのだ! と思いながら、魚屋さんが薦めてくれたレストランに向かいました。

 ところが夕食が終わってホテルにもどると、レストランは満席状態。考えてみれば、魚料理に飽き飽きしている住民たちには人気があるレストランなのだろう・・・と結論しました。

 帆立貝はフランスではご馳走なのですが、あんなに山積みされているのを毎日見ていたらうんざりしてしまうのも無理ありません。それとも、やはりフランス人は肉の方が好きなのでしょうか?・・・


 フランスの魚料理は火を通しすぎでは?

 フランスを旅行しているときは、海沿いに行ったときか、最高級ランクのレストランに入ったときでないと、魚料理は注文する気になりません。安い魚料理だと冷凍食品を使っている可能性があります。ちゃんとしたレストランでは、冷凍食品を使っている料理には注意書きがあるのではっきり分かります。

 それに、こちらで食べる魚はソースの味が決め手になっているので、よほどソースの味を上手につくりだしていると思えるレストランでないと食べたくないと思ってしまいます。

 フランス人は、魚に火を通しすぎていると思います。パリの日本料理店でサーモンのカマの塩焼きを食べたとき、フランスのサーモンもこんなに美味しいのかと驚いたことがありました。庶民的なサーモン料理だと(と言っても、サーモンはご馳走ですが!)、クリームなどで煮込んでしまっていて、私の感覚ではほとんど缶詰の味になってしまっているのです。

 イタリアでは、さっぱりとした、本来の魚の味を活かした料理が出ます。上に書いたノルマンディーを旅行したときに行ったレストランでも、魚介類の火の通し方がアルデンテだと感じました。

 海に近いところでは、魚の味を活かす方法を知っているのだと思います。もっとも、新鮮な魚が手に入らない地方では、しっかりと火を通すという伝統があるのでしょう。

2003年12月


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