セイヨウサクラソウ
Primevère officinale / Coucou
Primula veris


セイヨウサクラソウ
Primevère officinale, Coucou

 通称「ククー(coucou)」と呼ばれる草。

 鳩時計からハトが飛び出すときの音が「ククー」。顔を覗かせるときに手を振りながら「やあ〜!」から「ばあ〜」という感じで、「ククー」と言われます。愛嬌のある名前の草です。

 草むらや道端など、いたるところに咲いています。

 開花期は4月から6月。

 この時期の野原や道端にはタンポポも咲いているし、菜の花畑も広がっているので、圧倒的に黄色が多い世界になります。
 遠くで群生しているのを見るときれいに感じますが、近くで花を眺めると、黄色い部分が先っぽだけなので、余り変哲のない花だと思ってしまいます。

 それでもフランス人には気に入っている草なのかも知れません。散歩している女性がククーの花束を持っているのを何度も見たことがあります。茎がスンと長いので、簡単に花束が作れるからかも知れません。フランス式に花だけで花束をつくると、黄スイセンと同じようにクスダマの形になります。

田舎町の庶民的なレストランに飾ってあった花束

 フランス人はそんなにこの花が好きなのかな、と思ってしまったのは、園芸店で苗を売っているのを見たときです(下の写真)。

 庭があれば、いつのまにかたくさん生えてしまう雑草なのですが、マンション住まいの人などにとっては買う価値があるのでしょうね、ククーの花をベランダなどに植えると、野原をほうふつとさせて嬉しいのかも知れません。


 この花を見ると、何年も前に花束をつくって私にくれた女の子を思い出して、どうしているかな?と思ったりすることがあります。

 当時の彼女は小学校低学年でしたが、大人びていて、とても頭の良い子でした。なんだか私を気に入っていて、大人たちが集まるパーティではいつも私に付きまとっていました。

 大変なお父さんっ子。お父さんは材木会社の社長さんで、完全に男の仕事なのに、彼女は学校に行かないときには四六時中お父さんの職場に行っていました。買い付けをする前に下調べで森の木を計って歩くときにも、小さな彼女は背丈よりも高い茂みの中を必死に歩いてついていきます。

 ある日、材木会社に遊びに行ったとき、彼女がその辺に生えていたククーで花束をつくって私にプレゼントしてくれました。好きな花ではないけれど、感激した顔をしてお礼を言いました。私が花を好きなことを知っているので、つくってくれたのが分かっていたからです。

 喜ばれて気をよくした彼女は、そばに一緒にいたお母さんにも花束をつくりました。
「なに、こんなもの!」というのが、お母さんの反応。花束を受け取ろうともしないのです。

 お母さんはなぜか一人っ子の彼女が嫌いらしいのです。友人たちの噂によると、若い頃はかなり可愛らしかったのに、子どもを生んでから異常に太ってしまったので恨んでいるのだという理由。そんなことってあるのでしょうか? ともかくお母さんの冷たさは驚くほどでした。

 それだからお父さんっ子。毎晩ベッドに行く前にお父さんに挨拶のキスをするときも、一晩でも別れるのが辛いように悲しそうな顔をするのだと聞きました。お父さんが死んだら、絶対に後追い自殺してしまうだろう、などと友人たちは言っていました。

 その子には、もう久しく会っていません。中学からは近くの町の寄宿舎に入ったと聞いています。大人になったら、偏った育ち方からは影響を受けないで幸せになって欲しいと思っています。

作成: 2004年5月  更新: 2009年10月

Home