|
||||||
小さな村で、「村の思い出(Mémoire de Village)」と題した展示会が開催されました。 主催したのはメルセデスさん。愛する故郷への彼女の思いを、写真とポエムで綴るという展示会でした。 メルセデスさんは18歳の時に村を去って、今はパリ近郊の町に住んでいます。フランスには、いくら田舎が好きでも、仕事のために都会に行かなければならない人たちがたくさんいるのです。 彼女のポエムの中に、なぜ展示会を開いたかについて語っているものがありました。 |
|
|
|
展示会は8月の半ばに、役場のホールで開かれました。役場は、メルセデスさんが通った小学校だった建物です。 8月中旬、土曜日の午後2時からだけ展示会。その日のお昼近くには、メルセデスさんが近郊の人々を招待してお披露目のための食前酒パーティをしました。 役場の庭には、こんな小さな村なのに、何処からやって来たのかと思うほど大勢の家族連れが集まりました。実にふんだんに食前酒が用意されています。田舎の人はたくさんお酒を飲むことを配慮していたのでしょう。 |
村長の挨拶の後は、メルセデスさんから、一人で村に暮らしているお父さんに感謝を込めてのプレゼント進呈がありました。箱から取り出されたのは、お父さんが大好きなウイスキーを飲むためのグラスでした。 |
|
左の写真: パーティに集まった人々に挨拶する村長(右)、メルセデスさん夫妻(中央と左) 右の写真: メルセデスさんから村に住む父親へのプレゼント |
正直言って、食前酒が振舞われるパーティには大勢の人が集まるものの、午後の展示会にはほとんど人が来ないのではないかと思っていました。 観光客が来るような村ではないのです。人口密度が1キロ平米に15人という過疎地域にあって、ロアーム村にも住人は百人くらいしかいません。商店やレストランがある村までは20キロくらいあります。昼食を済ませてから、また役場にやって人がどのくらいいるだろうか? と私が心配してしまうのも当然なのです。 ところが、午後になってから行ってみると驚いてしまいました。役場の周りにはたくさんの車が駐車しているのです。何もない小さな村で、これだけの車が集まるのはお葬式のときにくらいなのです! お披露目のパーティ以上に人々が集まっていました。 みんなメルセデスさんが村への思いを込めて書いたポエムを熱心に読んでいます。昔の写真や資料の展示にも感心が集まっていました。 |
会場には、押し花の展示、ボトルやグラスに掘り掘り込んだ作品、絵画なども展示されていました。 ここは昔のままの建物なので、石壁に展示物をかける釘や画鋲を打ち込むことができず、メルセデスさん夫妻も苦労して展示したようです。でも、そこかしこに乾燥した野の草花があしらわれていて、素敵な会場になっていました。前に行ったときに感じた物寂しげな雰囲気は消えています。 メルセデスさんのポエムは、村を擬人化して語らせるというものでした。野の花や草の押し花もあしらっているのは、とてもきれいだと思いました。 石壁、野原、大木、電線など、村にある色々な風景を写した写真に詩が添えられていて、彼女の故郷への熱い思いが伝わってきます。 センチメンタルになるくらい感動もしました。メルセデスさんが讃えるのは、気の毒なくらいに変哲のない村だったからです。 フランスには、どこを写真にとっても絵になってしまうような美しい村がたくさんあります。そんな村なら、どんな詩を添えても美しくなってしまうでしょう。 でもこの村には目を引くものが何もありません。山や丘もなくて、全くの平坦な土地。川が流れているわけでもありません。教会や城など、何か自慢にできるような歴史的建造物もありません。 メルセデスさんは、そんな平凡な風景しかない村にオマージュを捧げ、故郷を讃えていたのです。それが訪れた地元の人たちにも喜びを与えていると感じました。 |
|
会場の入り口には昔の衣装を着た受付の人がいました。芳名録のノートがあったので、私は日本語で「ご成功おめでとうございます」と書きました。 テーブルの上にのっているカゴに入っていたのは、来場者に渡す記念品でした。 野草でつくった小さなブーケ(下の写真)には、メルセデスさんの「いらして下さってありがとうございます」というメッセージがついていました。 |
作成: 2003年8月 |
Copyright © Bourgognissimo. All Rights Reserved. |