野生の蘭(ラン)

ビーナスの木靴
Sabot de Vénus


Sabot de Vénus

 様々な野生のランがありますが、このビーナスの木靴は余りにも貴重にされているランの花なので別に扱いました。

 フランス語の名称は「サボ・ド・ヴェニュス」。「ビーナスの木靴」という意味です。英語ではレディース・ブーツ(貴婦人のブーツ)と呼ばれる花だと思います。黄色い部分が袋状になっているので、ブーツというよりは木靴の方がイメージに近いと思います。

 絶滅の危機にあるとして、このランを保護する法律(1982年)も定められているそうです。最近では、この花が咲く地域のカフェの壁などにも、保護しようというポスターが貼られるようになりました。

 噂は聞きながら、なかなかビーナスの木靴を見つけることができませんでした。人が余り入り込まないような森や野原の奥深くにあるからなのです。

 ようやく製材会社の社長さんが場所を教えてくれたので、私は5月下旬になると行きます。ブルゴーニュ北部のなかでも特に人口密度が低い地域()にある森の中で、小川のある湿地帯です。
 その一帯に初めて足を踏み入れたときには、あちこちに見事な株ができているので驚きました。確かに野生のランの中では別格な気品があります。


 右は、ビーナスの木靴が咲く地域に立てられていていた、花の採集を禁止する看板です。欧州連合や自治体から補助金を得て、環境保護団体が立てた立派な看板です。

 保護運動をするのは良いのですが、貴重な花だと教えることによって人々の関心を引いてしまうので、かえって逆効果なのではないかと私は思ってしまいます。きれいな花を皆に見てもらいたい、というのが保護団体の人たちの気持ちでしょうか?

 でも、ビーナスの木靴の花が咲く時期には、その地域には足跡が目立ちます。花が咲くまでは他の草と見分けがつきにくいので、踏んでしまったりすることもあるでしょう。

 私がビーナスの木靴を見たたのは、1Km²当たりの住民は7人程度の広大な森に囲まれた地域。観光客などは殆ど来ません。この当たりの住民たちにとって最も貴重なのは、森や野原で取れる野生のキノコです。スズラン黄スイセンを摘むことはあっても、野原や森に群生しているランの花などには見向きもしないのです。こんなにポスターや看板などでPRされたら、花に興味がない人たちでも見てみたくなるでしょう。

 本当に絶滅の危機にある植物のことを思うなら、そっとしておいてあげて欲しいと思ってしまいます。むしろ「この付近は毒ヘビが出るので注意」、などという看板を立てた方が良いのではないでしょうか?… 看板を立てた環境保護団体では、花が群生する場所から少し離れた所に看板を立てたと言っています。でも、地域を明らかにしてしまっていることには変わりありません。


更新: 20133年7月


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