|
【意外な所にあった幻の花】 「ビーナスの木靴」という野生のランと同様に、このリス・マルタゴンも長いこと私にとっては幻の花でした。 特別に珍しいという花ではないのだそうですが、私は偶然見かけることがなかったのです。6月から7月にかけて咲き、背の高さは50cmから1.5mくらい。話を聞いて、日本の彼岸花のような花を想像していました。 数年前、場所を知っている友人が「今が見どころだ」と言うので、数人で見に行くことにしました。 人里離れた所に咲いているのだろうと思っていたのに、ブルゴーニュでは最も大きな町ディジョン市の郊外にある森に連れて行かれました。小川に沿って遊歩道が整備されていて、小川のほとりにはピクニックができる木で作られたテーブルなども設置されています。 ディジョンに住む人たちが週末などに遊びに行く森なのです。そんな場所なので、保護植物のリス・マルタゴンは、かろうじて残っている程度だと思いました。 【保護植物の破壊?】 ところが、あること、あること! 群生している所が何ヵ所もあったのです! 町に住む人たちがよく行く森と言っても、人口の少ない国の良さでしょう。町の人たちが行く森は他にもたくさんあるので、この森は全く荒らされてはいないのです。私たちが行ったのも日曜日だったのに、すれ違った人は数名だけでした。 |
6月25日のことでした。花の盛りが終わろうとしている時期だったようです。それでも花がたくさん残っているので感激して森の中を歩いていると、奇妙なことに気がつきました。 右側にある方のユリを見てください。花の上の方がなくなっているのが分かるでしょうか? 気をつけて見ると、花先が切られているユリがたくさんありました。 |
Lis martagon (Lilium martagon) |
一番たくさんユリが咲いていると言って連れていかれた場所では、みごとな広さにマルタゴンユリの葉が見えるものの、花はすべて摘まれているので唖然としました。 「なんと心ない人がいるのだろう!」と、私たちは憤慨しました。 でも私は奇妙だと思いました。散歩していた人が花を摘んだなら、花瓶に活けられるように、もっと下から切って持って帰ればよいではないですか? 花先だけを摘むのは不自然です。 子どもがいたずらして摘んだとも考えられます。でも、それにしては摘まれたユリが余りにも多いのです。そんなにたくさん摘んで歩くのは狂気沙汰としか思えません・・・。 その後しばらくしてから辞典で調べてみると、マルタゴン百合は、フランスの森にたくさんいるノロ鹿の大好物であると書いてありました。鹿が花を食べてしまったとなれば、あの奇妙な花の摘み方は納得がいきます。 【マルタゴン百合に白ワイン】 マルタゴン百合を見に行ったときは、友人の1人が冷やした白ワインを持ってきていました。マルタゴン百合を見たお祝いに一杯やろうというわけです。 ブルゴーニュではよく食前酒が飲まれるので、全く自然な思いつきです。それにワインを持ってきた友人夫妻は、最近発見した農家のおいしいワインを皆に試飲させたいという気持ちもあったのです。 森の入り口にあったテーブルの前に陣取ると、おしゃべりが弾んで、ワインをしたたか飲みました。 残念だったのは、ワインの方はたっぷりあったのに、簡単なおつまみしかなかったこと。余りにも森が気持ち良いのでレストランに行こうという気にもなりません。 こんなちゃんとしたテーブルとイスがある所なら、ピクニックの食事を用意してくれば良かった、というのが全員の一致した思いでした。 |
作成: 2003年6月 |