一般の人々にも絶大な人気がある

Salon international de l'Agriculture à Paris


見出し:

 農業に親しみを持つフランス人

「日本にも農村があるのですか?」
フランス人に「日本の農村を開発するための仕事をしています」と言うと、そんな返事が返ってくることがある。

確かに、フランスのテレビ・ニュースを見ていると、日本は人口が密集した都会の姿でばかり紹介されている。しかし日本人にとってのフランスのイメージも、農村ではなくパリなのだからお相子かも知れない。

しかし日本を訪れるフランス人は、「東京から京都まで行ったが、車窓からは田舎の風景が全く見えなかった」と言って驚く。パリからTGV(超特急電車)に乗れば、東京を出て横浜を通過するくらいの時間がたてば、人家が全く見えない田園のただ中に出てしまうのである。

フランスの人口密度は日本の3分の1。しかし旅行していると、フランスに人口密度は日本とは比較できないくらい低いような感じを受ける。人が住めないような厳しい山岳地帯の割合が少ないため、人口が分散しているからだ。

そんなフランスなので、人口が2万人を越すような町は、窒息しそうに息苦しい、とフランス人は感じるのだそうだ。週末になると、町に住む人々がこぞって田舎にでかけるのも無理はない。

フランスの国土は、半分以上が農地となっている。農業が盛んだから当然かも知れないが、フランス人の農業に対する思い入れは、ことのほか強いように感じる(注)。農業がフランス経済の中で大事な黒字部門だということなどには関心を持たない人々でも、おいしい物を供給してくれる農業の大切さを意識しているからかも知れない。

フランスの田園風景を見せるパノラマ写真はこちらから
(高速回線でない場合は、画像が出るまでに少し時間がかかります)

 フランスのスローフード運動

イタリアで発生したスローフード運動は、フランスではほとんど話題になっていない。そんなことを言われる前から、フランス人たちはおいしい食事をすることに情熱を燃やしていたからだ。フランスの友人たちと、延々と何時間にもわたる食事をしているとき、話題に上るのは食べ物の話しが一番多いように思う。

そんなフランスでも、最近は、若者や子どもたちの食生活の乱れが問題にされてきている。ファーストフードには強い批判があるのに、大きな町にはマクドナルドの店が竹の子のように増えてきている。

そもそもフランスのレストランでの食事は時間がかかり過ぎるので、簡単にすまそうとするとファーストフードということになるのではないだろうか。イタリアには、安くて簡単に食べられて、しかもファーストフードよりおいしいピザ屋がたくさんあるので、マクドナルドはフランスより少ないように感じていた。ところが、そのイタリアでさえ、マクドナルドが増加していると聞いて驚いた。

食の乱れは、世界的な現象なのだろう。

フランスでは、農村に遠い都市に住む子どもたちが、食物がどのように作られるか知らないことを問題としている。県庁所在地のような大きな町でさえ、農村には簡単に行けるほど農村が広がっているのだが、大都市パリは例外である。スーパーマーケットで買うミルクが、実は牛の乳なのだ、などということを知らない子どもたちさえいるという。

農業人口が減少した今、学校では、授業として農場を訪れ、食べ物がどのように作られるかを教えることが盛んになった。子どもたちを受け入れて授業をする農家は「教育ファーム」と呼ばれている。10年前くらいからは教育ファーム・ブームとも言えるほどだ。秋には、味覚週間というのもあって、各地で食べ物を見直すためのイベントが行われる。

フランスでは、スローフードという名前を使わないで、同じ趣旨の運動がおこっていると言えるかもしれない。なにしろ食文化を誇る国だ。大人たちは、それを守ることに真剣である。

パリの農業国際見本市会場  (調理のデモンストレーション)

 パリに巨大な農場をつくってしまう農業見本市

毎年、早春のパリでは、国際農業見本市が開催される。このイベントは、農業関係者にはビジネスショーなのだが、一般の人々も大勢訪れる。パリに住む人々にとっては、いながらにして農村に行った気分を味わえるので人気があるようだ。大勢の子どもたちの姿も見られるのは、教育ファームの代わりとして連れて来られているのだろう。

数あるフランスの見本市の中でも、農業見本市は最も人気のあるイベントの一つだろう。人口が少ない国なので、人並にもまれるなどという経験はめったにないのだが、この農業見本市は例外である。息詰まるような会場にいると、フランス人の食べ物に関する感心はまだ心配する域には達していないと感じる。

パリの農業見本市会場は、東京ドームの十倍くらいの広さがある。2,300頭余りの品種が異なる家畜を見ることもできるし、様々な楽しいアトラクションやデモンストレーションなどもあるので、子どもたちを始め、一般の人々も楽しめるように工夫されている。


パリ農業国際見本市
Salon International de L'Agriculture
2016年は
2月27日(土)から3月6日(日)まで開催
9時~19時

2011年の見本市データ
入場者数: 678,732
出展者数: 1,142
家畜の数: 4,667
以上


オフィシャル・サイトへ

ところで、この農業国際見本市では、家畜や農産加工品のコンクールが行われます。

ワインがお好きな方は、右のようなレッテルがワインに貼られているをご覧になった方があるのではないでしょうか? 優勝したことを示すレッテルです。

 東京に持ち込まれたパリの農業見本市

このパリの農業見本市が、「日本におけるフランス年」の目玉イベントとして、東京に持ち込まれたときのことを思い出す。1998年のことだ。

フランス政府は、農業見本市を日本にプレゼントすれば、フランスでこれだけ人気があるのだから、田舎が少ない日本では、よけい喜ばれるだろうと思ったに違いない。

始めに出されたプレスリリースには、「あの農業祭が日本にやって来る!」と書いてあった。

フランスから、品評会で優勝した家畜や、樹木の苗木を輸送して、会場に農村風景をつくってしまうという計画であった。馬のデモンストレーションもあり、ポニーの乗馬もつくり、まさにパリの農業見本市のミニュチュア版を再現しようとしたのだ。

しかし、このプレゼントは、日本ではさほど喜ばれなかったらしい。日本人は農業に余り関心を持たないので、農業という文字を入れたイベントでは人を集められないと心配された。またフランスはファッションなどの都会文化のイメージが強い国なので、農業見本市というイベントはアトラクティブではないとも思われたのだろう。日本側は「なぜ農村? なぜ家畜?」という反応だったらしい。日本サイドでは、会場の半分をつかって、しゃれたパリのイメージでフランスをアピールする計画を進めて行った。

イベントの開催が迫ってから、フランス農水省の見本市担当官が私に連絡してきた。農村風景を再現するスペースを設ける主旨が日本人に伝わらなくて困っているので、準備チームに加わって欲しいというのである。

送られた書類を見ると、計画が進むにつれて、イベントのPRからは「農業」の文字が薄れていったことが分かった。妥協したらしいフランス側の書類には、イベント名は「フランスの地方と物産展」とあったが、日本でPRされているタイトルは「フランスまつり」となっていた。

準備スタッフに加わることを承諾してからの私は、フランスの農業と農村を日本にアピールするために、プレスに向けた宣伝、会場で配るパンフレット、会場のプレートの文章などを作った。

フランス側が意図していたのは、「フランス=パリ」ではなく、フランスは農業が盛んな国で、個性豊かな地方があるということを日本にアピールすることだった。私も同感することだ。フランスの農村の魅力を紹介するアイディアは自然に浮かんできた。

品評会で優勝したみごとな牛たちに、どんな意味があるか。品種が違うオークの苗木を並べた森は、フランス人の憩いの場を再現したもの。ヤギの乳でチーズを作るのは、食品はどうやってできるのか知るのは大事だから…。

開催が迫っていたので、徹夜する日が続いたのだが、仕事は楽しかった。実際の会場プランを見たわけではないのに、コンセプトを知らせてもらっただけで、どんな風な農村風景になるのか目に浮かんだ。主催者に確認をとると、ほとんどが思い描いた通りなのもおもしろかった。


イベントは予想以上の来場者を集め、大成功だった。私は、フランスの主催者たちからは、窮地を救ってくれたと感謝の言葉をいただいた。

しかし会場に入りきれないほどの来訪者を集めたのは、農村スペースではなかったと思う。人気を呼んだのは、出展された地方の物産や、日本サイドが担当した、従来からのフランスのイメージに基づいた会場だったはずだ。

「フランス=パリ」のイメージを破ることは並大抵なことではない。私が担当したフランスの農村を再現したコーナーは、どのくらい日本人にインパクトを与えることができただろうか・・・。

この仕事をしたときから、本格的にフランスの農村の魅力を日本に伝えたいと思っていた。そこで書いたのが『フランス田舎めぐり ~ 田園で過ごす癒しの旅のすすめ (JTBパブリッシング)』である。この本を出版できてから、ようやく「フランスまつり」の仕事をしたときに味わったフラストレーションが解消できた気がした。


 フランスを知るための推薦図書: 『もう一つの食料超大国フランス』

「フランスまつり」の仕事をしたときほど、日本とフランスでは、農業や農村に対する愛着の度合いが違うと感じたことはありません。

amazon.co.jp. 本の紹介ページ フランスの豊かさを支える農業が、どれほどこの国で大切にされているかを理解するためには、『もう一つの食料超大国フランス』 (実重重実著、家の光協会、1994年)を読まれることをお勧めします。

この本では、フランス人が農業を重視する理由として、次の点に挙げています。
   ・食料生産力が国力だという意識
   ・食と緑に対する要求
   ・国土の豊かさに対する信頼
   ・食料は国力である
   ・美食とバカンス 

「フランスにとって、農業は国家と民族のアイデンティティに根ざすものであると同時に、そこでは、国家の利害、農業者の利害、都市住民の利害の三者がみごとに一致している。そのことを知らなければ、なぜあれほどまでにフランスが農業にこだわるかということが理解できないであろう」
『もう一つの食料超大国フランス』より


最終更新: 2014年7月


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