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フランスではグリーン・ツーリズムが戦後にスタートした、という捉え方をします(内部リンク: 終戦直後から始まったグリーン・ツーリズム振興)。でも私は、フランスのグリーン・ツーリズムのコンセプトは18世紀末に誕生したと思っています。 フランス革命の直前、貴族たちの間で、広大な城の敷地に農村を造って、農村生活を体験しながら憩いの時を過ごすことが流行したのです。 |
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城の敷地内に造成された人工的な農村は、「アモー(hameau)」と呼ばれています。村落から離れた集落という意味でも使われている単語です。 城につくられた「アモー」に、どういう日本語を割り当てれば良いか分かりません。集落、農村、村里?... ここではフランス語のままに「アモー」としておきます。 アモーは、日本の皇居の中に田んぼがあるのとは違います。あくまでも余暇時間を過ごし、憩いの場とする空間なのです。色々な作物を植えた畑があり、家畜もいて、田舎家が並ぶという農村風景が広がっていました。 人工的につくられた農場と農村であるわけですが、そこで貴族たち自然や農業に接し、田舎暮らしの楽しさを体験しながら癒しの時間を時間を過ごしたのでした。 初めにアモーが造られたのは、パリのシャルル・ドゴール空港から近い所にあるシャンティーイ城。ブルゴーニュも統治していたコンデ公の城です。 |
シャンティイ城のアモー | |||
いくら貴族たちが農村でのんびり過ごす時間を過ごしたからと言って、アモーは人口的に造られた農村ですから、それがグリーン・ツーリズムだとは言えません。実際、フランスのグリーン・ツーリズム研究家でも、アモーがグリーン・ツーリズムの始まりだと言う人はいないのです。 「19世紀になってから、庶民も田園を憩いの場にできるようになった」という言い方はされるのですが、これは貴族たちが森や野原で狩猟などのスポーツを楽しんでいたことを指すのです。グリーン・ツーリズムの歴史を書いたフランスの書籍や報告書でも、アモーに触れているものは見たことがありません…。 私は折に触れてアモーのことを話したり書いたりしているせいでしょう。日本でフランスのグリーン・ツーリズムの始まりはアモーにあると書いてあるのを見ると、私が言ったことを引用したのが分かるので責任を感じてしまいます…。 でもアモーのコンセプトは、グリーン・ツーリズムのそれと同じだと見て良いのではないでしょうか? 貴族たちは農村で休日を過ごしたいと思っても、農家に遊びに行くわけにはいかないのですから、城の敷地の中に農村を造るしかなかったのです。 農村に行って癒しの時間を過ごすのは、今でこそ簡単にできることですが、本当は贅沢なことなのです! |
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王妃マリー・アントワネットも、ヴェルサイユ宮殿の広大な敷地の中に、大きな農村を造成させました。王家の財政を悪化させるほど工事費を使ってしまったそうです。 農家の家族を呼び寄せて住まわせ、牛、豚、ヒツジ、山羊などの家畜も選りすぐって遠方から運び、まさに理想郷のような牧歌的な風景をつくりだしていました。ここでは地域を特定した農村をつくったのではなく、王家の領土となっているフランス全体の姿を現したそうです。 下の絵は、完成したばかりの頃のアモーを描いた絵です(1786年の絵画)。 |
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実際に農業者を住まわせて農業活動をさせたのですから、ただの遊園地ではありません。生産された農作物は王家の食卓にのりました。 マリー・アントワネットは村人のような服を着て、子どもたちや親しい友人たちと一緒にアモーで田舎の生活ごっこのようなことをして楽しんだそうです。 いつか見た古いフランス映画では、ヴェルサイユ宮殿でロケされており、マリー・アントワネットがアモーでくつろぐ美しい情景の場面がありました。どう見てもグリーン・ツーリズムだと思ってしまいました…。 ランブイエ城に行ったときには、庭園にある「王妃のチーズ工房」というのを見学しました。まるでギリシャの神殿のように美しい建物。実は、この城に行きたがらないマリー・アントワネットの気を引くために、夫のルイ16世が造らせたのだそうです。 派手好きなイメージがあるマリー・アントワネットですが、実際には儀式ばったヴェルサイユ宮殿の生活が息苦しかったようです。 そう実感できたのは、ヴェルサイユ宮殿で「講師(conférencier)」とよばれるガイド付きの見学コースに参加して、豪華な王妃の間の裏側にあった彼女のプライベートな時間を過ごすアパルトマンを見たときでした。 どうして王妃がこんな小さな部屋を造らせたのか?... と思ってしまうほど狭い空間。誰でも部屋が余りにも広すぎると落ち着かないものなのでしょう。出産のときにも人々から見守られてしまう王妃の立場(そうでないと嫡子であることを証明できない!)...。 人間、贅沢ができれば幸せというものではありません。マリー・アントワネットは、絢爛豪華なヴェルサイユ宮殿の中の隠れ家のアパルトマン、宮殿の敷地内にある別宅トリアノンとアモーで幸せなときを過ごしたのです...。 ヴェルサイユ宮殿に修復・保存されているアモーの姿は、次のページをご覧ください。 参考: ヴェルサイユ宮殿のアモーをバーチャルヴィジット(内部リンク) |
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なぜ農村でリラックスするのが流行したのでしょうか? 次は、その背景についてお話します。 |
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