私の名前はエルミネット。
 ママとパパと、妹のミーシャ(写真右)と一緒に、パリのアパルトマンに住んでいます。

 お家があるのは、マレー地区です。とても素敵なところなのだそうですが、残念ながら、妹と私は街を散歩できません。外に出るのは、家族でヴァカンスを過ごすときだけ。
 でも、アパルトマンはとても広いので、運動不足にはなりません。

パパのこと

 パパは世界的に有名な人なのだそうです。名前を言ったら、ご存知の方もあると思います。でも、ネコと同じように、人間にもプライバシーがあると思うので、名を明かしません。

 私を拾ってくれたのはパパでした。そのときのことは覚えていませんが、ママがお友だちに話しているのを聞きました。
 パパが、「ル・モンド」という新聞社でミーティングしていたときのこと。

 会議室に、いきなり、見知らぬ女性が入って来たそうです。

 彼女は、生まれたばかりの子ネコが何匹も入った箱を見せました。そして、「このネコたちのもらい手を捜して欲しい」、「新聞社には探す義務がある!」 と、こわい顔をして言ったそうです。
 ル・モンドという新聞は、インテリが読む新聞です。今でこそカラー写真や風刺漫画なども入っていますが、少し前までは、写真は全くなく、活字だけの新聞でした。でも、いまだに、虫メガネで読みたくなるくらい小さな活字です。
 こんな硬い新聞で、捨て猫のもらい手を捜すような記事を出すわけにはいきません。
 
 「探せない」と言われると、女性はヒステリーをおこしました。「もらい手を捜してくれないなら、この子ネコをみんな殺してしまう!」と、脅したそうです。そして、気が狂ったように、ネコを次々とつかんで、壁にたたきつけ始めたのです!

 まだ生まれたばかりの、まだフラフラのネコたちです。その場にいた人たちがびっくりして、それで、それぞれがネコを引き取ることになりました。
 パパが選んだのが私でした。

 パパは、背広のポケットに私を入れて帰って来たそうです。それを迎えたママは、あわてて薬屋さんに行って、哺乳瓶など、必要なものを揃えてくれました。

 そんな風にして迎えられた私ですが、パパもママも、私をとても可愛がってくれます。その数年後には、ポルトガルで生まれたネコを私の妹にしてくれました。
 妹のミーシャも、この家に来るにあたっては、私ほどでないにしても怖い思いをしました。その事は、次のページで、ミーシャからお話します。
 パリでは色々なことがおこります。
 先日、田舎から遊びに来たママのお友だちは、パリに来ると、外国に来たような気がする、と言っていました。
 彼女たちが薬屋さんに行ったら、19世紀のようないでたちの男性がいたのだそうです。上半身を隠してしまうほど大きな羽のセンスを広げて、優雅にあおいでいたそうです。3月末なのに、とても暑い日でした。
 ママの方は別に驚かなかったそうですが、田舎のお友だちの方は、思わず写真を取らせてもらったそうです。でも、写真のポーズになったら、センスを閉じてしまったのが残念だと言っていました。
ママのこと

 パパはお仕事で忙しいので、私たちはママと過ごすことが多い毎日です。

 ママは、外で遊ばない私たちにコレステロールがたまるのを心配して、毎日、野菜を煮て、キャットフードに混ぜてくれます。そこまでしてくれるのは嬉しいけれど、お肉の方が好きなので、本当は困っています。
 ママは、とても料理が上手。体に良いからと、お魚の料理もつくってくれます。でも、やっぱり野菜がたくさん入っています。私たちもママのようにお料理ができたら、好きなものだけ料理できるのに・・・。

 ママは私たちの健康を気にしているけれど、ママは体がデリケートなので、私たちの方が心配しています。光化学スモック警報が出た日などは大変です。お家の中にいても息苦しいらしいのです。

 私たち姉妹の毛が抜けるのもママにはいけないらしくて、お医者さんは、私たちと別居するように言ったそうです。でもママは、私たちを見捨てないでいてくれます。
 お掃除の人が週に4回やって来るので、アパルトマンの中はとても清潔なのです。家の中にはアンチーク家具がいっぱいあって、まるで博物館のよう。でもイスやソファなど、私たちが寝られる場所をたくさんつくってくれて、上に敷くタオルも頻繁に代えてくれます。

 ママは、ずっと前からパリを離れたがっています。午前中は、マンションの前の通りにあるお店に荷物を運ぶトラックが渋滞して、クラクションが鳴ってばかりいるのも耳障りなようです。本当は、街中でクラクションを鳴らすのは法律で禁止されているのですが、パリではいっぱい聞こえます。
 それに、政権が変わってからデモが多くなったので、家の近くのあるバスディーユ広場に大勢の人が集まるのも、生活しにくい、とママは嘆いています。

 でもパパのお仕事があるので、パリを離れられません。南フランスに別荘があるのですが、私たちを連れてニースまで飛行機で行って、それからレンタカーをかりて別荘まで行かなければなりません。
 それが大変なので、ママとパパは、もっと近くに別荘を持とうと探しています。私たちも、乗り物は苦手なので、すぐに行けるような所に別荘を持ってもらいたいと思っています。

 パパとママが短い旅行をするときは、マンションの管理人さんが、私たちの家に来て、食事の用意をしてくれます。管理人さんはポルトガル人です。
 フランスでは、イタリアからの移民は大工さん、マンションの管理人といえばポルトガル人、と言われています。イタリア人は、あれだけ色々な建築物を残した人たちだから大工が得意。ポルトガル人は真面目で信頼できるからだ、と聞きました。
 管理人さんは良い人ですが、やっぱり私たち姉妹だけになってしまうと寂しいです。

 ママから許可をもらったので、彼女のプライバシーを少しご紹介します。
ママの愛読書

本の題名は『パリでネコを飼う』
ママの日記帳

ネコがモデルになった、
あの名画が表紙になっています
この冬、ママとパパがヴェニスを旅行したときのお土産

体が陶器でできているネコのお人形。
とても高価なお人形だったので、買うかどうか迷ったそうです。
立派なお洋服ですが、私たちには、帽子に付いている羽飾りがとても魅力的。
このお人形の前を通ると、いつも羽をむしって遊んでいます。
       


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