フランスの食事に欠かせないチーズ
Pas de repas sans fromage(s) !

目次
ミルククラブ連載記事より

『美味礼賛』の著者であり美食家として知られる作家ブリヤ=サヴァランは、「チーズのない食事は、片目しかない美女のようなものだ」と言った。

鋭いギャグを飛ばして人々を笑わせた今は亡きコル−シュのギャグにも、「人生には選択を迫られる時がある。チ−ズを選ぶか、デザ−トを選ぶか」というのがある。レストランの安い定食では、前菜とメイン料理の後に、好みによってチ−ズかデザ−トかのどちらを選ばなければならないからだ。食事は甘い物で終わらせたいが、チ−ズを抜かすのは寂しい。こんな選択を迫られると、ハムレットの心境になってしまうというわけだ。

故ドゴール大統領は、「こんなに沢山のチ−ズがある国を統治するのは容易なことでなない」と発言した。フランスでは毎日一種類のチ−ズを食べても、一年では全部のチ−ズを味わうことができないくらいに数多くの銘柄がある。



食事の中でハイライトを浴びているチーズの出番

フランス人たちの食事を見ていて面白いと思うのは、フランス語でフロマージュ(fromage)とよばれるチーズの重要さです。

日本の食事なら漬物といった感じで、なくてはならないもののようにチーズが出されます。それなのにチーズは、食事の中でもハイライトを浴びるような位置を占めているのです。

フランスの本格的な食事は食前酒から始まって、白ワイン、赤ワインが出ます。前菜、メイン料理が終わるとチーズへと進むのですが、このときには用意されていたワインの中で最高のものが出されます。

出される数種類のワインはランクを上げていくので、メイン料理が終わってから出されるチーズのときには最高のワインになるのです。それだけではなく、チーズと一緒にワインを飲むと、一番ワインの味を味わえるとも思われているようです。

それぞれのチーズに合ったワインがあるわけですが、チーズは何種類も出されるので、一般的にはどのチーズにも合うように赤ワインが出されます。

レストランのチーズワゴン例:

レストランでは、食欲をさそうために、色々な盛り付けが工夫されています。

ごく庶民的なレストランでは、チーズ盛り合わせ皿がドンとテーブルに置かれて、好きなだけとってから皿を返します。

ふつうのレストランでは、お給仕の人がチーズがのったワゴンや皿などで持ってきます。それぞれが何のチーズかを説明してくれるので、欲しいチーズを言って切り分けてもらいます。

フランス人たちは、長い時間をかける家で食事会などではいくらでもチーズを食べていますが、レストランでは3種類くらいを取る人が多いようです。

私は小食でも色々な種類を食べたいので、「少しずつ」と言って切り分けてもらいます。「少し」と言っても大きなスライスにされるので、最近では、1センチとか2センチの厚さに切ってください、などと言うになりました。そんなことを言うと、友人たちには笑われてしまうし、チーズを薄く切るのは難しいので給仕の人を困らせていますが仕方ありません!

家庭でのチーズ盛り合わせ例:

家庭でのおもてなしでも、チーズには力を入れます。

色々な個性があるチーズを取り合わせよく選び、お客さんに喜んでもらえるように気をつかいます。招待客にお気に入りのチーズがあれば、それも入れるようにします。

この写真は、4人で食事したときに用意されたチーズの盛り合わせです。

大変なボリュームですが、4人で全部食べられる量ではありません。ご馳走のときには色々な種類のチーズを並べないと見栄えがしないので、人数が少なくてもこのくらいの量にはなってしまうのです。


チーズが出ないフランス料理なんて...
フランスの食事は、たいてい前菜、メイン料理、チーズ、デザートというコースからなっています。骨折して病院に入院したこともありますが、毎日このフルコースでした。

初めに入った大きな公立病院の食事は、次に入った私立リハビリセンターの食事のように美味しくはありませんでしたが、チーズだけは美味しかったのを思えています。いくら大量生産の病院の料理でも、チーズの味は落ちなかったようです。

ついでに、病院といえどもワインも出してくれたのにも驚きました! チーズがない食事は寂しいですが、ワインなしでチーズを食べるのも寂しいものですので!


フランス人たちが食事するときには、前菜とメイン料理の量が充分でなかった場合には、チーズを大目に食べてお腹をふくらませます。

来日したフランス人の通訳をしたとき、招待側が用意してくれていた夕食のフランス料理を一緒にしたら、ボリュームがとても少なかったことがありました。小食の私でさえ、メイン料理が終わっても、まだ何も食べていないような感じの物足りない料理。見た目はとてもきれいでしたが・・・。

「すみません」と私が言うと、フランス人がこっそり答えました。

「いいんですよ。チーズをたくさん食べますから」

フランスのレストランでは、特別にチーズの小皿がついた定食メニューでない限り、チーズは食べ放題なのです。特に美食の地ブルゴーニュでは、お仕着せのチーズ盛り合わせ皿が出されるのはツーリスト・メニューでしか見たことがないように思います。

ところが! 私たちのレストランにはチーズはありませんでした・・・。




1カ月に平均2キロ近くもチーズを食べるフランス人
フランス人のチーズ消費量は1人当たり年間20.4Kgだそうです。つまり1カ月に1.7Kgも食べてしまうのです!

フランスのテレビ・ニュースで、日本で売られているフランス・チーズが余りにも高いと面白がっているような報道がありました。彼らの感覚で大量にチーズを買ったら、破産してしまうくらいの値段だというわけです。

そういえば、フランスでは普通では売っていない超小型のカマンベール・チーズも日本では見たことがあります。繊細なチーズは飛行機で特別に運ばれるのでしょうから、フランス・チーズが高価になってしまうのも仕方ありません。

フランスでも、チーズは高い食品だと言われています。特に手間のかかったチーズなどは高価な値段で売られています。それでも日本に比べれば遙かに安いのです。フランス人たちは、これだけ毎日たくさん食べるので出費がかさむのでしょう!


豊富なフランス・チーズの種類
これだけフランス人はチーズが好きだからなのでしょう。世界中には600種類とか1000種類とのチーズがあるといわれますが、そのうち400種類くらいはフランスで作られているのだそうです。

それでもチーズが好きでないというフランス人もいます。フランス人は食べ物の好みがはっきりしていて、好きでないとか、消化できないとか言って、かたくなに食べない食品がある人が多くいます。

私の友人の中にも、2人だけ、大変なグルメの癖にチーズを食べない人がいます。といって、さすが食べられるチーズというのは持っています。2人も、ハードタイプのコンテ・チーズなら食べるのです。

他の人たちがチーズを食べ比べて喜んでいるとき、彼らだけは1種類のチーズしか食べないので、とても奇妙に感じます。せっかくフランスで生活しながら残念だとは思わないのでしょうか?・・・

フランスのチーズの種類
 原乳の種類、製造工程、乳固形分の性質によって、次のように大きく7つに分類されます。
  • 白カビタイプ: 原料(牛乳)を白いカビにおおわれた熟成タイプのソフトなチーズ
  • フレッシュ、クリームタイプ: 熟成させず、製造過程の第一段階のみで仕上げるフレッシュタイプ
  • 山羊乳タイプ: 山羊乳を原料にしたチーズ
  • セミハード、ハードタイプ: プレスして水分を少なくした堅めのチーズ。比較的大型で、長期間熟成
  • ウオッシュタイプ: 塩水や酒で洗いながら熟成
  • ブルータイプ: 凝乳(カード)の中に青カビを植えつけて熟成を進める
  • プロセスタイプ: 1〜2種類のナチュラルチーズを加熱して溶かし、乳化剤で乳化


チーズを味わう醍醐味
日本でも、6世紀に大和朝廷が百済から乳製品を献上されたとの記述があり、平安時代の朝廷ではミルクが栄養食品として珍重されていたそうです。「醍醐味」という言葉はチーズの味を表す言葉だったとも聞きました。

鎌倉時代にはチーズの姿が消え、再び乳製品が普及するようになったのは明治時代に入ってからです。

いつもなぜ平安時代にはあったチーズが姿を消したのか不思議に思っています。鎌倉時代は農業生産性が向上した時代なので(実はこの画期的な技術は、コヤシの利用にあったのだと聞きました)大豆がプロテインを供給するようになり、ミルクは必要なくなったからでしょうか?・・・

チーズは日本の食事では漬物のようになくてはならないものだと書きましたが、豆腐の役割にもよく似ています。

チーズには旬の季節もあります。春になって牧場に出された家畜から作った初めてのチーズ、などという札が売り場に出ていると嬉しくなります。

山岳地帯のチーズ産地では、美しい高山植物の花々の写真と一緒に、この地方ではこんな花を食べた牛のミルクから作ったチーズだからおいしいのだ、などというポスターまでありました。

チーズは買ってからの保存状態でも味が変わります。地下にチーズ・セラーがあるチーズ屋さんで売っているチーズや、グルメ・レストランで出されるチーズは、さすがプロと感心させられるように上手に熟成させたチーズを楽しめることができます。

熟成させると美味しいチーズでも、余り日がたってしまうと味が変わり過ぎてしまいます。食べごろというのがあるのです。

チーズは保存の仕方によって、ワインのように当たり外れがあるので、フランス人たちは食卓でチーズを食べ比べて楽しめるのかも知れません。

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作成: 2003年7月

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