Introduction au tourisme vert en France
農村にある家からのながめ(秋)


緑豊かな田園が広がるフランス
日本で「フランス」というとパリのイメージが強く、長閑な田舎があることを思ってくださる方は少ないのではないかと思います。

でもフランスという国は、面積の8割が農地や森林なのです!

フランスの田舎にいてパリに行くと、外国に来たと思えるほど飛びぬけた大都会です。パリっ子たちの気質も、「外国人だから…」と思った方が納得できるほどかけ離れています。

フランスは伝統的に農業国。大規模経営化が進んで農業者の数は少なくはなりましたが、祖先は農業を営んでいたという人が大勢います。そんな農業国の片隅に住んでいるパリっ子たちは、東京に住んでいる人たちよりもストレスがたまっていて、頻繁に田舎の空気を吸いに行かないと生きていけない、という強迫観念を持ってさえいるように感じます。

それに今日のフランス経済では、農業と観光は大切な黒字分野。その2つが合体するグリーン・ツーリズムが、ヨーロッパ諸国の中でも最も発達したのも無理がありません!

グリーン・ツーリズムとは何か?
普通の観光旅行とは違うツーリズム。田舎に行って、土地の生活に溶け込んで滞在するのがグリーン・ツーリズム。

農村にしかない宿もあるし、自然に親しんだり、スポーツを楽しんだり、その土地ならではの味覚を味わったりと、グリーン・ツーリズムには色々な楽しみがあります。

駆け足の観光旅行と違って、特別なことはせずに田舎の空気を味わうことにも魅力があるのですが、精力的に色々なことをしても、やはりグリーン・ツーリズム。

訪れた土地の人たちと心の触れ合いの機会が多いことも、グリーン・ツーリズムの大きな魅力の一つです。

農村を舞台にしているのがグリーン・ツーリズムなのですが、農家が行うツーリズム(民宿、レストランなど)に対して「グリーン・ツーリズム」という言葉を使っている国もあります。
日本のグリーン・ツーリズム
日本では、10年ほど前から農林水産省が「グリーン・ツーリズム」という言葉を使って積極的に振興しているので、はっきりとした「グリーン・ツーリズム」の定義が定められています。

「緑豊かな農山漁村地域において、自然、文化、人々との交流を楽しむ、滞在型の余暇活動」

実際の活動をみると、農家のツーリズム活動(農作業を体験できる民宿、農家レストランなど)を中心に、自治体が行うツーリズム事業など、従来になかった形のツーリズムとしてグリーン・ツーリズムが発展してきていると受け取れます。最近では、都市と農村の住民の交流を深める活動にまで発展しています。
日本のグリーン・ツーリズムについて:
グリーン・ツーリズム >> グリーン・ツーリズムってなんだろう?

フランスのグリーン・ツーリズムとは?
フランスのグリーン・ツーリズム振興は終戦直後に始まりました。【このことについては歴史について書いたページで少し触れました】。

行政が求めたことは日本と重複するのですが、日本政府のように明確な「グリーン・ツーリズム」プロジェクトとして立ち上げたという歴史はありません。グリーン・ツーリズムの発展に寄与する色々な計画やプロジェクトが次々と出て来た・・・、という形で発展してきました。

そのため、フランスのグリーン・ツーリズムには公式定義がありません。このページの冒頭で書いたようなイメージがあるだけなのです。

フランスでは、「グリーン・ツーリズム (tourisme vert)」という言葉は、「農村ツーリズム (tourisme rural)」と同じに扱われています。

農家が行うツーリズム活動は「アグリ・ツーリズム(agri-tourisme)」、あるいは「アグロ・ツーリズム(ago-tourisme)」などと呼ばれ、グリーン・ツーリズムの一部として扱われています。従って、農家に宿泊するのがグリーン・ツーリズムの条件とはなっていません。

また日本の定義では「滞在型の余暇活動」となっていますが、フランスでは、週末だけ、あるいは日帰りで田舎に行く人たちでも良いのです。実際フランスのグリーン・ツーリズムでは、短期滞在者の存在が非常に大きいのです。
グリーン・ツーリズムは普通の「ツーリズム」とは違う
フランスにはグリーン・ツーリズムの定義があるわけではないのですが、「グリーン・ツーリスム(農村ツーリズム)」が普通のツーリズムと区別されている指標はあります。私は次の3点だと思っています。

  1. 地元の人たちによる、地元の人たちのためのツーリズム
  2. 農村で休暇を過ごす人たちが、地方色を強く感じることができるツーリズム
  3. 利益を追求した商売活動という要素が少ない、手作りのツーリズム

地元の人たちによる、地元の人たちのためのツーリズム
フランスのグリーン・ツーリズムには定義はないのですが、外部資本が入ったツーリズム事業とは明確に区別されています。全国的ないし国際的なホテル・チェーンやリゾート開発関連会社が行っている活動は、グリーン・ツーリズムではありません。

また、有名な海水浴場、スキー場、レジャーランド、湯治場などのリゾート開発は、一般的にはグリーン・ツーリズムの範疇には入りません。特に、大量にツーリストを呼び込み、自然環境や景観を無視したリゾート開発などのツーリズム活動は「インダストリー・ツーリズム」として、たとえ農村を舞台にしたツーリズムでも「グリーン・ツーリズム」ではないとされています。

フランスのグリーン・ツーリズムの大前提は、

  • 地元の人たちが自分の生活を守る、あるいは地域が好ましい形で発展できると判断して開発していること。
  • ツーリズム事業による収益が地元に落ちること。

フランスの農村には、都会とは全く違った景観や伝統が残っています。それを郷土資産として守ることも、グリーン・ツーリズムの大きな目的となっているのです。いくら活性化が必要な農村でも、大量のツーリストを呼び込んで村民が住みにくくなるような活動はしません。

ですからグリーン・ツーリズムでは、個人や自治体の小さな活動が中心になっています。それだからこそ、グリーン・ツーリズムには「手作り活動」とも言えるような、真心がこもった暖かさがあるのだと思います。

地方色が豊かなツーリズム
地方独特の文化や風土を味わえるのがグリーン・ツーリズム。フランスのグリーン・ツーリズムの開発では、その地方の文化や歴史など、その地方のカラーが強くだされています

自然にも、家や教会の造りにも、それぞれ地方の特徴があります。それが第一に尊重されています。

例え農村にあっても、画一的なコンクリート造りの宿泊施設はグリーン・ツーリズムとしては扱われません。フランス最大の農村民宿連盟ジット・ド・フランスでも、新興住宅地にある民家は加盟できないのです。逆に、日本の小規模で風流な旅館や民宿は、フランスなら完全にグリーン・ツーリズムの宿となりますが..。

お客さんの方でも、日常とは違った生活ができることを期待しているのです。その土地を訪れた、その風土に溶け込んだ、という感覚を味わえるのがグリーン・ツーリズムです。そのために、グリーン・ツーリズムはストレス解消になったり、癒しの旅になったりできるのです。

その意味でフランスでは、民宿や小規模ホテル、歴史的建造物、博物館、郷土特産食品、伝統的な料理を出すレストラン、工芸家のアトリエ、その土地だからできるスポーツや自然観察関係の活動の関係者たちが、力を合わせてグリーン・ツーリズムの振興をしています。

B&B民宿の朝食
テーブルの向こうは壁面いっぱいの大きな暖炉。
金儲け主義ではないツーリズム
農村の活性化と同時に、伝統も守るということを目的としているフランスのグリーン・ツーリズムは、少し特殊かも知れません。

農村民宿も、古い建造物を廃屋にしないための手段となっています。そのため、民宿経営の収益が家を修復した費用の一部でも負担してくれるなら、儲けがなくても良いと考える人がたくさんいます。

特に、貸し別荘型の民宿などを利用したときには、この料金では採算が合わないだろう...と思うことがよくあります。

それから、フランスの農村部では人口密度が非常に低いので、農村の人たちは単調な生活に変化を与えてくれるツーリストが来てくれるのが嬉しい、という感覚もあります。民宿などに泊まると、経営者の延々と続くおしゃべりの相手にされて、観光しようと思っていたスケジュールが狂ってしまうことさえあります。

古い家を廃屋にせずに維持できて、人との出会いがあれば、それで良い、と思う人たちが多いのです。

そんな雰囲気があるので、フランス人ツーリストが民宿や農家レストランを利用するときには、「お客様は神様」という態度をとりません。プロが経営するホテルやレストランを利用するときとは違って、お金を払ってるのに、まるで友人に世話になっているような気遣いをするのです。

終戦直後からグリーン・ツーリズムが振興されているフランスは、60年以上もグリーン・ツーリズムの歴史がある国です。フランス人たちは、グリーン・ツーリズムは普通のツーリズムとは違うということをわきまえていると感じます。

つまり、農村の人は「ツーリストが来てくれて良かった」と思い、ツーリストは暖かいもてなしを受けたと感謝する。ツーリズム活動する人も、ツーリストも、対等の立場で感動を覚える出会いとなること、これがグリーン・ツーリズムの魅力です。これはフランスに限らず、どの国のグリーン・ツーリズムでも最も大きな要素になっていると思います。

シャトー民宿に泊まったとき、ご主人(もと農業者)が歓迎のワインをご馳走してくださいました。

ご主人がお城の別棟に造った小さなバーです。おびただしい数のボトルやお酒グッズのコレクションが展示されていました。

夕食前の食前酒の時間。私たち泊り客以外にも、近所の人たちが数人やって来ました。「ご主人のオフィスに来た」と言って!

作成: 2003年11月
フランスでのグリーン・ツーリズムについては、著書『フランス田舎めぐり』の紹介ページもご覧ください。

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