ブルゴーニュの食前酒
本物のキールとは?   (2)

Kir

前のページで本場ブルゴーニュのキールの作り方をご紹介したので、このページではキールについて、もう少し突っ込んだお話しをします。
ディジョンで最高のレストランで出されるキール酒

目次:
1. 本物のキールは何で作る?
2. キールには、白ワイン「アリゴテ」を使う
3. カシスのリキュールがキールの味を決める
4. キールは、調合の割合がポイント
5. キールは、ディジョンの市長キール氏が広めた食前酒
6. キールのバリエーション
7. 余談

 5. キールは、ディジョンの市長キール氏が広めた食前酒
日本では、キールはディジョン市長だったキール氏が考案したと言われることがありますが、実際にはカシスのリキュールと白ワインのカクテルはそれ以前から存在していていました。中世の作家ラブレーの作品の中にも、ブルゴーニュの食前酒としてヴァン・ブラン・カシス(Vin Blanc Cassys)についての記述があるそうです。

キール市長キール氏は市長時代にレセプションなどでこのカクテルを広めたために、ジャーナリストたちがこの食前酒をキールと呼ぶようになったそうです。

キール氏は数々の豪快な言動を数々残した名物市長で(在職: 1945~68年)、ディジョンで育った年配の方たちは未だに忘れられない人物のようです。

地元の人たちは彼のことを「Chanoine Kir」と呼びます。Chanoineとは教会参事会員(律修司祭)。つまり彼は聖職者で、市長時代もその服装で貫いています。

*キール氏のありし日の姿は、こちらのページにリンクしたビデオをご覧ください。
キール氏は、ディジョンっ子たちが余暇時間を過ごせるように、川をふさいで人造湖も作っています。その名もキール湖!
キール湖

キールの思い出:

私が初めてブルゴーニュに行ったとき、ディジョン市でホームステイしました。暑い夏の日の午後、ステイ先のマダムがキール湖に遊びに連れて行ってくれたのですが、家にもどると飲み物を出してくれました。それが、キール酒との出会いでした。

キール湖に行ったあとにキール酒を飲むという洒落た計らいだったのでしょう。でも、フランス語もブルゴーニュのこともろくに知らなかった当時の私。喉が渇いているだろうと、シロップ・ジュースを出してくれたのだと思いました。

ゴクゴクと飲んでしまうと、「おかわり、いる?」と聞いてきます。暑さで脱水症状気味でしたし、とてもおいしかったので、もちろん「ウイ」と答えました。たて続けに3杯くらい飲み干したところで、クラクラしてきました。

マダムが笑っています。この飲み物はお酒だったのだと、初めて知りました!

キールは、クレーム・ド・カシスというアルコール度の高いリキュールに、白ワインをブレンドした食前酒です。甘くて口当たりが良いのですが、本場ディジョンの調合のキール酒を3杯飲んだら、ワインをグラス10杯飲んだくらいにアルコールが回るのではないでしょうか?

お酒に弱い方は、おいしくても飲みすぎないようにご注意くださいね!
 6. キールのバリエーション
カシスのリキュールと白ワインの組み合わせがキールですが、色々なバリエーションがつくられています。


キール・ロワイヤル
(kir royal)
白ワインの代わりに、白いシャンパンを使ったドリンク。
シャンパンの代わりに、ブルゴーニュのスパークリングワインクレマン・ド・ブルゴーニュを使うこともあります。
この場合にはワイングラスではなく、シャンパングラスを使います。

ブラン・カシス(Blanc cassis)
ブラン・カス(Blanc cass)
白ワインとしてアリゴテ使わずに、別の白ワインを使ったドリンク。ブルゴーニュでなければ「キール」と呼んでしまっていますが。

カシス以外の果実
のリキュール
を使ったカクテル
クレーム・ド・カシスでなくても、違う果実のリキュールでもおいしいカクテルができます。よく使われるリキュールは、次のものです。:
キール・ア・ラ・ペシュ(Kir à la pêche):
桃のリキュール「クレーム・ド・ペッシュ」をつかいます。特に、昔のブドウ畑に生えていた桃の木「ペッシュ・ド・ヴィーニュ」に特に人気があるかも知れません。桃のリキュールを使うと、普通のキールとは違って黄色のカクテルになります。エレガントでとてもおいしいです。

キール・ア・ラ・ミュール(Kir à la mûre):
ブラックベリーのリキュール「クレーム・ド・ミュール」を使います。

キール・フランボワーズ(kir framboise):
ラズベリーのリキュール「 クレーム・ド・フランボワーズ 」を使います。
ラズベリー(フランボワーズ)とシャンパンを使ったカクテルは「キール・アンペリアル(kir impérial)」と呼ばれます。

*ここでもブルゴーニュ人は、白ワインとしてアリゴテを使わなければ「キール」という名前を与えません。アリゴテでない白ワインを使ったときには、例えば、ミュールのリキュールなら「ブラン・ミュール(blanc-mûre)」、桃のリキュールなら「ブラン・ペッシュ(blanc-pêche)という具合に呼びます。

赤ワインを使ったカクテル 一般化はしていませんが、白ワインの代わりに赤ワインでキールを作る人もいます。そのカクテルは、Cardinal、Communard、Téméraireなどと呼ばれるそうです。
Cardinal(枢機卿)は、主にボルドーの色の濃い赤ワインを使ったものを指すようです。ブルゴーニュではキールは枢機卿の服の色と表現するので、理解に苦しむのですが。
Téméraire(テメレール)とは、ブルゴーニュ公国のシャルル勇胆公のこと。ただし、発泡酒のクレマン・ド・ブルゴーニュを使ったものを「テメレール」と呼ぶ人もいるそうです。

地方のキール 地方によって、特産品を使ったキールも作られています。
シードルを使ったキール:
北フランスにはシードル(林檎酒)の産地ですので、白ワインの代わりにシードル(りんご酒)を使ったキールを作ります。発泡酒なので、キールロワイヤルに似てしるかも知れません。
ブルターニュ地方では「キール・ブルトン(kir breton)、ノルマンディー地方では「キール・ノルマン(kir normand)と呼ばれています。

その他にも、ロレーヌ地方では、カシスの代わりにミラベルのリキュールを使ったキールがあるそうです。
外国ともなると、ビールとカシスのリキュールでカクテルを作ってしまう国もあると聞きましたが、本当でしょうか?!


本物のキール(クレーム・ド・カシスアリゴテ)以外のバリエーションのカクテルの呼び名は、統一されていません。

ブルゴーニュにいると、本物のキール、キール・ロワイヤルが主流です。たまに、カシス以外の果実を使ったキールを作ることがあり、アリゴテを使わないときにはブラン・カスという言葉を使うのを耳にする程度です。赤ワインやシードルを使ったキールなどには、まずお目にかかりません。
 7. 余談
キールは、白ワインとカシスのリキュールのカクテルという定義にすれば、フランスでは最も飲まれる食前酒の1つなのだそうです。ただし、ブルゴーニュを離れると、本場のキールとはほど遠いものを平気で「キール」と称して出しきます。

パリのカフェでは余りにもひどいキールが出てきたので、飲まずに置いて立ち去りました! ほとんどロゼ・ワインのような色なのでしたので飲む前に失敗したと思ったのですが、味もキールではありません。

それ以来、パリのカフェでキールが飲みたいなどという常識外れなことは、考えないことにしました!

土地によって、その地方独特の食前酒があるところは良いのですが、パリのように何もないところでは、食前酒に何を飲むか悩んでしまいます。レストランに入ったときには、すぐに白ワインから始めれば良いのですが、食前酒タイムにカフェに入ったときなどは困ります...。

ディジョン最高のレストランで出されたキール
ここは本物のキールではないかと感じる飲食店でキールを注文するときには、白ワインとしてアリゴテを使っているかどうかを聞くことにしています。

「本物のキールですか?」と聞くと、「本物って??」と困らせたりしてしまうことがあります。もちろんブルゴーニュだと意味が通じるので、誇らしく「本物ですよ~♪」と答えてくれるのですが。

何のワインを使ったかとう質問には、どこでも正直に答えてくれます。答えられないようなところは、そこで失格。アリゴテではないワインを使っていると言われたときには、注文しないことにしています。本物のキールにこだわっていないとすると、カシスのリキュールもいい加減なものを使っているのだろうと推察できるからです。

フランスにいらしたとき、本物のキールを味わいたいと思われたら、やはりブルゴーニュ、できればディジョンで飲まれるのが一番です。

でも、ディジョンっ子たちは、どのカフェのキールがおいしいかを、しっかりと把握していますが!
キールについての始めのページへ
作成: 2009年10月

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