フランス人のファーストネームとカレンダーの関係

Les prénoms des Français
同じファーストネームがやたらに多い!

フランス人には外国の血が多く入っているので、苗字は実にバラエティーに富んでいます。多いと言われる苗字のトップクラスのリストを見ても、数人の知人の顔が浮かんでくる程度です。ましてや日本のように、同じ名前なのに親戚関係ではない知り合いが何人もいる、というようなことはありません。

ところがファーストネームの方は、ありふれた名前の人たちが非常に多いのです。

私の知人関係でも、同じファーストネームを持つ人たちが何人もいます。フランス人のファーストネームは、8割くらいは良く知られた名前のような気がしています。

例えばジャンという男性。私の知り合い関係だけでも10人くらいはいると思います。「ジャンが…」と友人が話し始めると、どのジャンのことだろうと思ってしまいます。

しかもフランスではファーストネームで呼ぶので、苗字などは覚えていないことも多いのです。それで私は、その人が住んでいる町の名前を付け加えて話しをしています。つまり「清水の次郎長」のような言い方です。

 
聖人の名前をファーストネームにする
なぜ同名が多くなるかは理由がはっきりしています。フランスではキリスト教の聖人の名前をとってファーストネームにすることが多いからなのです。

主だった聖人の名前がファーストネームになっていて、記憶に残らないような難しい名前の人はほとんどいないので、フランス人の名前を覚えるのは楽でもあります。

調べてみると、男性ではジャンという名前が最も多くて、133万人もいるとありました。男性の第2位のミッシェル(68万人)を大きく引き離して一位でした。女性の方のトップはマリーという名前。こちらも134万人いて、第2位のナタリー(36万人)との差が更に大きくなっています。

ジャンというのはヨハネのこと、マリーは聖母の名前(マリア)です。キリスト教で最も有名な名前ですから人気があるのでしょう。

聖人の名を2つ並べた欲張りなファーストネームもある
フランスではアメリカのようにミドルネームを通称で言うことはありません。つまりジョルジュ・W・ブッシュとか、ジョン・F・ケネディのように、イニシャルがファーストネームに入っている名前は聞いたことがありません。

フランスでは、カトリック信者なら、ファーストネームに3つの名前を書くのだそうです。本人の名前、親の名前、名付け親の名前を並べるという具合。ジャンやマリーという名前の人が100万人以上もいるのは(フランスの人口は6千万人くらいに過ぎませんから)、こうしたミドルネームも数に入れているからでしょう。

でもミドルネームは戸籍の上に書かれるだけで通常では使わないのため、ミドルネームを持っているということさえ分かりません。

その代わりに、2つの聖人の名前をハイフンで繋げているファーストネームがかなりあります。マリー・テレーズ、マリー・クロード、ジャン・ポール、ジャン・ピエール、ジャン・フランソワなどというものです。

何か言うとき、例えば「こんにちわ」とか「ありがとう」などと言う時、その後に相手の名前を付けることが多くあります。私は、名前を連発するのはいくらたっても慣れない感じがしています。よほど親しい友人ならとこかく、年上の人などに馴れなれしく「ありがとう、マリー」などと言うのは何となく抵抗を感じてしまうのです。

まして長いファーストネームだと発音するのが面倒な気がしてしまいます。でもフランス人たちには抵抗が全くないようです。
カレンダーには聖人の祭日が記載されている
カトリックでは、法王庁が聖人の祭日を定めています。

フランスのカレンダーを見ると、毎日が誰それの聖人の日だと書き込まれています。日本のカレンダーに「大吉」とか「仏滅」とか書いてあるようなものです。

ファーストネームは聖人の名前からとることが多いので、フランス人たちは本当の誕生日があるほかに、自分と同じ名前の聖人の祭日にも「おめでとう!」と言われます。

カレンダーにはすべてを書き込めないくらい聖人がたくさんいるようです。

書いてある聖人の祭日は、カレンダーによって多少の違いがでています。

ぴったりと合う聖人の名前がカレンダーにない人は、近い名前の聖人の祭日を自分のファーストネームの祭日として人もいるとのこと。

聖人の名が入ったフランスのカレンダーがどんなものであるかは、こちらをご覧ください:
Calendrier
今日を赤くハイライトしたカレンダーが出てきます。
 今日お祝いする名前が表示されています

1年に誕生日が2回あるようなもの
日本では誕生日というと子どもがパーティをして祝うという感じがありますが、フランスでは大人になってもパーティを開いてお祝いするのが好きだと感じます。

特に50歳になると、大勢の招待客を集めたパーティを開く人がたくさんいます。半世紀を生きた、というお祝いなのです。フランスに来てから、「50歳と言えば、半世紀を生きたことになる」と気がつきました。

友人の誕生日を覚えていて「おめでとう」と言うのが友情の証なのですが、ファーストネームの祭日の方も覚えておいて「おめでとう」と言わなければなりません。こちらはカレンダーを頻繁に見ていれば、友人の祭日だと気がつきます。

花屋さんも、抜け目なく、店先などにはよく「今日は誰々の日」と書いた紙を張り出しています。例えば11月6日はシルビーさんの日。「彼女にお花を贈ってはいかがですか?」というわけです。

ただし同じ「おめでとう」でも、誕生日の方は「Bon Anniversaire ! (ボナニヴェルセール)」と言い、ファーストネームの祭日の方は「Bonne Fête !(ボンヌ・フェット)」と言います。

もっともファーストネームの「おめでとう」の方は、ごく親しい人がプレゼントをする程度で、そのために盛大なパーティを開く人は見たことがないような気がします。

カレンダーを見て赤ん坊に名前をつけると…
むかし子どもが多かった頃には、生まれてきた赤ん坊の名前をつけるのが面倒なので、カレンダーを見て、その日の聖人の名前を付けることもあったとも言われます。日本で、長男に「太郎」、次男に「次郎」などと付けたのと同じ発想でしょうか。

アフリカのフランス語圏には、単純にカレンダーを見て付けてしまった奇妙な名前があるのだそうです。

例1 「フェットナット」という名前:
7月14日の革命記念日には「祭日(Fête nationale)」と書いてあるのですが、カレンダーによっては、省略して「Fête nat.(フェット・ナット)」 と書いてあることがあります。カレンダーには聖人の名前が書いてあるものなので、フェット・ナットも聖人だと思ってファーストネームにしまったらしいのです。

例2 有名人の奇妙な名前:
中央アフリカのバカサ大統領のファーストネームはジャン・ベデル(Jean Bedel)。フランス人だと、カレンダーに「Jean Be de L」と書かれていたのを取ったであろうことが分かるので、笑ってしまうのだそうです。

4月7日には、教育者の守護聖人となっているJean Baptiste de La Salle(ジャン・バティスト・ド・ラ・サール)という聖人の名前が書かれています。この長ったらしい名前をカレンダーに書くのは場所を取るので、たいてい省略して書いてあります。その省略した記載が「Jean Be de L」となっていたようです。別に無知で省略形を名前にしたわけではなくて、ジャン・ベデルの方がすっきりしているので、しゃれて付けたのかも知れません。

革命期に付けられた奇妙なファーストネーム
フランス革命では、貴族やキリスト教的なものが目の仇にされました。

貴族やキリスト教的ものを想起させる町や通りの名前は変更されました。町の名前に「教会」という文字が入っている町の名前の場合、「教会」の文字の部分を「山」に変えたりという具合です。南仏マルセイユには「Ville-sans-Nom(名なし町)」などという名が与えられるなど、極端に馬鹿バカしいものまでありました!

ファーストネームの方も、聖人の名前などを付けているのはケシカラン!というわけで、新しい名前がたくさん考えだされました。革命精神にあったファーストネームが20万もリストアップされたとか。

革命政権がつくった共和暦でも、カレンダーには聖人の祭日を記載するのをやめて、ファーストネームにするのに相応しい単語が書き込まれました。

暦に記載されているのは、宗教色が全くないニュートラルなもの。植物や自然、「カボチャ」とか「栗」とか「ブドウ」とか「山」など。動物の名前もたくさんあって、「馬」とか「ハト」とか「牛」、さらには「豚」とか「ロバ(馬鹿の意味になる)」。「ジョウロ」、「梯子」、「樽」などというのもあって、何でもござれ!という感じ。何を思ったのか、「嫉妬」とか「堆肥」などというのまであります。365日を埋めるために、思いついたものを書き出したのでしょう。

実際、共和暦に示されたファーストネームは機械的につけられたようです。10日・20日・30日は農機具の中から、5日・15日・25日は家畜の名前から、という具合です。

人々は聖人の名前をファーストネームにする代わりに、こんな変な名前を付けなければならなくなったわけです。共和暦が20年足らずしか使われなかったのは幸いでした!

 参考文献: Henriette Walter, Des mots sans-culottes, Editions Robert Laffont 1999

共和暦については、別のページをつくりました。

ニックネームもよく使われる
同じファーストネームが多いからというわけでもないらしいのですが、ニックネームもよく使われます。

まずアンドレという名前は「デデ」、ユーベールは「ベベール」という愛称になるというような定番があります。苗字やファーストネームの頭文字を繰り返して、ミミとか、モモのように発音の繰り返したものも多いように思います。

でも農村では、あだ名が本格的に作られていて、あだ名で呼ぶ方が好きらしいと感じます。

農村で使われているあだ名は、おもしろいものがたくさんあります。パン屋さんをしていたことがあるから「小麦粉」、大工が職業だから「キツツキ」、痩せているから「カエル」、子どもの頃に無茶に突進する性格だったから「サムライ」など。でも「月」とか「豆」、あるいは意味のない言葉がニックネームになっているのを聞くと、どうしてそんなあだ名が付いたのか不思議に思ってしまうものもたくさんあります。

農村では誰もがあだ名でしか呼ばないので、本名の方は全く知られていなかったりもします。それで新聞に出す死亡通知などでも、本名の後に「通称○○」とニックネームを付け加えていることがよくあります。そうしないと、誰のことだか分からない人が多いからでしょう。それが可笑しな名だったりすると、死亡通知なのに滑稽になってしまったりします。

バラエティーに富んできた最近のファーストネーム
インターネットでファーストネームについてのデータを扱っているサイトを見たら、3万を超えるフランスのファーストネームのデータが入っていると書いてありました。そんなに種類が多いのかと信じられないくらいです。外国系の名前も入っているからでしょうか?…。

フランスでもファーストネームには流行があります。日本と同じでしょう。名前を聞くと、その人の年代が想像できてしまうのです。ほとんど付けられることがなくなってしまった聖人の名前もあります。

最近は、聖人とは関係ないファーストネームも多くなってきたように思います。

10年近く前に、友人が出産した女の子に「オセアンヌ」という名前を付けたと聞いて驚いたことがありました。そんな名前の人は知らないので、とても奇妙な名前に感じました。海辺で毎年休暇を過ごす夫婦だったので、「大海」というオセアンを女性形にもじって考え出したのだと思いました。

でも親の勝手でそんな変わった名前を付けたら、子どもがからかわれてしまうのではないかとさえ心配しました。聖人の祭日がないので、名前のお祝いの日がないのも可愛そうに思いました。

ところが最近、他の友だちも子どもにオセアンヌという名前を付けたと聞き、流行っている名前なのかと思い始めていました。インターネットで統計を見ると、オセアンヌという名前は、最近の子どものファーストネームとしては第6位にもなっていたのです。

ありふれた聖人の名前などというのは面白くありません。信仰心が少なくなった現代では、聖人に因んだ名前をつける必要がなくなってきたのでしょう。少子化の影響もあって、親たちは愛情を集中的にそそぐ赤ん坊に個性的な名前を付けるようになったのではないかとも思います。 
フランスにお知り合いがあるなどの理由で、フランス人のファーストネームにご興味がある方は、次のページに進んでください。

フランス人に多いファーストネームと、最近付けられているファーストネームとを比較してみました。フランス人のファーストネームについて詳しく調べられるサイトも紹介しています。




外部リンク:
フランス人のファーストネームが女性名であるか男性名であるかを判断できる原則を紹介しているサイトがありました。京都産業大学のフランス語教材のページです。
 フランス人の名前の性別の大原則   最近の傾向

内部リンク(関連記事):
「カレンダーはいりません」とは言えない!
フランスの祝祭日 >> カレンダーを見て祝祭日を知る
更新: 2004/06、2008/12




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