国歌: 唖然とさせられる歌詞! (La Marseillaise) |
フランス国歌の題名は「ラ・マルセイエーズ(La Marseillaise)。「ラ」は女性定冠詞なので、女性のマルセイユっ子のことかと思ってしまいます。でも、ラ・マルセイエーズは、そんなロマンチックなものではありません!
「ブルゴーニュ地方について」のページで、ブルゴーニュ賛歌「ブルゴーニュの陽気な子どもたち」に比べると、フランス国歌はかなり戦闘的な曲なのだとお話しました。フランス国歌の歌詞をよく聴いてみると、驚くような内容なのです!!!
一般的に知られている歌は7番までありますが、最も知られている1番の歌詞は次のようなものです。
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祖国の子どもたちよ、栄光の日がやってきた!
我らに向かって、暴君の血塗られた軍旗がかかげられた
血塗られた軍旗がかかげられた
どう猛な兵士たちが、野原でうごめいているのが聞こえるか?
子どもや妻たちの首をかっ切るために、
やつらは我々の元へやってきているのだ!
武器をとれ、市民たちよ
自らの軍を組織せよ
前進しよう、前進しよう!
我らの田畑に、汚れた血を飲み込ませてやるために!
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日本語訳が入ったYouTube (歌手 ミレイユ・マチュー)
日本語と仏語が入った YouTube
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初めてフランス国歌の歌詞の意味を知った人は、仰天するのではないでしょうか?
こんな曲が、国賓を迎えたときなどでも奏でられるのは、考えて見れば、とんでもないことです!
フランス語が分かる外国人が、飛行機のタラップから降りてきたとき、こんな歌を合唱されたら、祖国に帰りたくなってしまうのではないでしょうか?
さすが歌詞を変えようという運動もあるようです。特に「汚れた(不純な)血」という言葉が、人種差別の極みだと批判されているそうです。汚れた血というのは、解釈の仕方によっては純粋にフランス人ではない人を指してしまいますから。
平和的な歌詞が作られたりしたそうですが、今日もなお、上の歌詞で歌われています。
この「ラ・マルセイエーズ」はフランス革命期に国歌とされた、という経緯を聞くと、歌詞の内容が理解できます。
マルセイユからパリに駆けつけた義勇軍が、その道中で口ずさんだ行進曲で、彼らを迎えたパリの人々が、この曲に「ラ・マルセイエーズ」と命名されたのです。
現在歌われているフランス国歌の歌詞は残酷です。意思を同じくして戦った革命の同士なのに殺し合った恐怖政治、今日でも現地では傷痕が消えていないヴァンデ戦争へと続く血なまぐさいフランス革命を彷彿させてしまう内容。
ところが、この曲はフランス革命のために作曲・作詞された曲ではありませんでした。
オーストリアへの宣戦布告に際して、ルジェ・ド・リール(Claude-Joseph Rouget de Lisle)が作詞作曲(1972年)した曲で、ドイツと国境を接するアルザス地方の「ライン軍のための戦争歌(Chant
de guerre pour l’armée du Rhin)」でした。この曲を歌ったマルセーユの義勇軍がパリへの行進で歌ったために一躍有名になったのです。
【ベルリオーズが編曲した国歌】
フランスの国歌には、色々なバージョンがあります。なかでも作曲家ベルリオーズ(Hector Berlioz)が編曲したバージョンは、見事なオーケストレーション。ソリストの歌手、子どもたちの合唱も入って、華やかで、感動的とも言えるくらい見事なクラシックの名曲です。
もっともベルリオーズの「ラ・マルセイエーズ」は、大編成のオーケストラと合唱団を必要とするので、めったに演奏されることありません。レコードを探しだすのさえ苦労しました。
クラシック・コンサートにはよく行くのですが、私が聞いたのは1度だけ。しかも東京でした。フランスのオーケストラが、アンコールで、ベルリオーズの『ラ・マルセイエーズ』を演奏したのです。
『幻想交響曲』などの作品で知られるベルリオーズは、フランスが誇る作曲家です。生誕200年であった2003年は「ベルリオーズ年」として、各地で催し物が行われました。
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ラ・シェーズ・デューで行われるベルリオーズ・フェスティバル |
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ベルリオーズ博物館 (Musée Hector Berlioz) |
ベルリオーズの生家が博物館になっています。
場所はイゼール県のLa Côte Saint-André町。 |
詳しくは、博物館のサイトをご覧ください。 |
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【国歌を歌えなくても当然?】
子どものころ、学校の行事で歌わされていた「君が代」は、私には異様な歌でした。意味も分からずに歌わされていたわけですが、限りなく意気消沈してしまうメロディーだと感じたのです。お前なんか石ころに等しい存在なのだから、国家のために死んでしまえ、とでも言われているような感じさえしていました。
その点、フランス国家は、歌詞の意味を考えなければ、明るくて良い曲だと思います。スポーツの試合などで歌われれば、フランス人選手たちの士気をもりあげることでしょう。
ところが、サッカーのワールドカップをテレビで見ていたとき、奇妙に思ったことがありました。フランス国歌斉唱になったとき、口を動かしていない選手たちがいるのです(そういう状況が見れるビデオ)。
こんな歌詞の国歌には抵抗して、わざわざ歌わないのかと思いました。でも、一緒に見ていたフランス人の友人は、ただ単純に、選手たちは歌詞を覚えていないのだと説明していました。
気をつけて見ていると、サッカー選手よりはラグビー選手の方が国歌を歌っている感じがしました。どこに理由があるのかは分かりません。
「ラ・マルセイエーズ」は、1879年にフランス国歌として法律で定められました。1944年、文部省は学校で国歌を歌うようにと通達を出しています。ところが、実際には、フランスの学校では、日本のように国歌を歌わせていなかったのだと知りました。左派と極右の票を集めて大統領となったサルコジ氏が、大統領に就任した翌年(2007年)、フランス国歌を小学校で教えることを義務付けるという発表したのが大きなニュースとして扱われたからです。
日本に比べれば、国旗を掲揚することが多く、戦争犠牲者を思い出させる行事も多いフランス。あっけらかんと愛国心が語られます。当然ながら、国歌も重視されているのだろうと思っていたのですが、大きな間違いだったのでした。もっとも、学校の先生たちは自分の方針で授業を行うことができるそうなので、反対運動が長く続くこともなく終結しました。
【平和的な歌詞も存在していた】
フランスの社会学者の友人が、ラ・マルセイエーズにも良い歌詞の節もあるのだと言って歌ってくれたことがありました。フランス政府サイトでも国歌は7節までしか紹介されていないのですが、12節の歌詞として、こんなものがあったのでした。
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La France que l’Europe admire
A reconquis la liberté
Et chaque citoyen respire,
Sous les lois de l’égalité. (繰り返し)
Un jour son image chérie
S'étendra sur tout l’univers.
Peuple, vous briserez vos fers
Et vous aurez une Patrie ! |
こちらは、フランスが勝ち取った自由と平等の精神を誇らしげに称え、その思想は全世界に広まるだろうという希望を見せています。敵を打倒するという残酷さは微塵もありません。国歌としては非の打ちどころがない歌詞に見えます。
こんな歌詞があったのなら、誰からも批判されないであろうこちらの歌詞に切り替えてしまえば良いのにと思ってしまいます。でも、国歌というのはどこの国でも微妙な問題を抱えるものらしくて、「ラ・マルセイエーズ」を平和賛美の歌詞にすることもできないようです...。
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このページを立ち上げたときには、フランス国歌のメロディーをどう見つけようかと苦労したのですが、今はインターネット事情が変わってきて、国歌が歌われる場面のビデオがたくさん流されています。それをご紹介したくなりました。
回り道 (フランス国歌が歌われた場面のビデオ) |
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更新: 2008年2月 最終更新: 2012年2月 |